4 事故発生から示談までの流れ
① 事故の発生
ア 道路交通法上の救護義務,報告義務がある。
警察へ事故の届出をする。この届出をしないと,「交通事故証明書」がもらえない。「交通事故証明書」は,最寄りの自動車安全センターに申請して取り寄せる(大分の場合は,〒870-0401大分市大字松岡6687〔大分県運転免許センター内〕電話097-524-6420)。他県でおきた交通事故についても、最寄りの自動車安全運転センターで申請できる。 申請用紙(郵便振替申請用紙または窓口申請用紙)は、自動車安全運転センターのほか、警察署・交番・駐在所等に備え付けてある。郵便振替用紙に必要事項を記入のうえ、最寄りの郵便局(振替窓口)に手数料1通540円を添えて申込む方法が一般的。
自動車安全運転センターのHP参照。
イ 任意保険に加入している場合には,保険会社に事故があった旨の報告をする。
ウ 相手に示談を持ちかけられたら?
相手に示談を持ちかけられても,即座には応じない。早期に専門家を入れずに解決した場合,後日損害賠償ができなくなる可能性もある。
エ 交通事故によって怪我をした場合は,警察で「人身事故」として処理されているかを確認する。警察への届けが「物件事故」扱いとなっている場合には,医師の診断書をもって警察に行き,「人身事故」に切り替えてもらう。
② 治療(通院・入院)
ア 後遺障害のことまで考えると,交通事故にあった初期の段階から一貫した愁訴があることが必要であり,その愁訴をカルテ上に正確に記載してもらう必要がある。また,その症状にあわせた治療先や治療方法,検査方法のアドバイスも含め専門家から指導を受けることが必要。
イ 仕事が忙しいからという理由で治療に行かないと,治療の必要性・相当性がなかったものとされる可能性があるので,痛みが継続している限りできるだけ時間を作って,通院治療を継続する。
ウ 事故の治療には,健康保険や労災保険の利用は可能。病院によっては,事故によるケガの治療での利用を拒否するところがあるが,法律上,利用できないわけではない。通勤途中や業務中の事故であれば,労災を利用することが可能。
③ 治療費・休業損害の打ち切り
保険会社から治療費・休業損害の打ち切りを言われることがある。
打ち切りの妥当性の判断については,病院からカルテの写しをもらい,専門の法律家に相談する。法律家において,保険会社と交渉をすることもある。
④ 症状固定(症状の安定)
治療しても痛みがよくもならないし悪くもならないといった効果が感じられなくなってしまう状態を「症状固定」といい,この段階以降発生する治療費は,原則として請求できなくなる(その段階で障害が残っている場合には,後遺障害の問題となる)。
保険会社から症状固定の要請を言われることがあるが,適切な後遺障害認定を受けるため,症状固定については専門家である医者とよく相談するのと同時に交通事故に詳しい法律家にも相談することが必要。
症状固定しないと損害額は確定しないし,後遺障害が残る場合もある。
⑤ 後遺障害の等級認定
症状固定後に障害が残ったら,後遺障害の等級認定を受ける。後遺症は1級から14級まであり,14級が一番軽い。
等級認定の手続には,「事前認定」と「被害者請求」とがある。後遺障害の等級認定には,保険会社に任せて手続を進める事前認定と,被害者が自ら動いていく被害者請求とがある。
「事前認定」は,被害者にとって手間がかからないが,提出する資料を被害者自身で収集・確認することができない。保険会社は,被害者の方がより高い等級の認定を受けることに必ずしも協力的ではないので,本来あるべき等級よりも低い認定になってしまうおそれがある。
「被害者請求」は,被害者が自ら資料を収集・提出するなどの負担があるが,提出する資料を被害者自身で選択することができる。そこで,後遺障害の等級認定から法律家に相談するべき。
また,一旦出ている後遺障害の等級認定についても異議申立をすることができるので,それも併せて法律家に相談すべき。
⑥ 保険会社との示談交渉
保険会社からの示談提示が適正なものかどうかの判断をする。保険会社からの示談提示がなされても,簡単に応じる必要はない。金額が適切なものかどうか事前に法律家に相談する。法律家に査定依頼をすれば,裁判基準での査定額を算出することが可能。損害額算定のためのツールは,日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻基準編」(いわゆる赤い本)と日弁連交通事故相談センター「交通事故損害額算定基準-実務運用と解説-」(いわゆる青い本)(いずれも弁護士でないと入手は難しい)。過失相殺については,東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通事故における過失相殺率の認定基準」別冊判例タイムズ16号(市販されている)が必要。
保険会社は一般的に裁判基準よりはるかに低額の示談金の提案しかしないので,注意が必要。後述の賠償金額決定の3基準の仕組みを理解すればわかる。
⑦ 示談(和解)成立
法律家の介入により適切な金額になれば,示談により解決が可能。
法律家に交渉を依頼すれば,和解契約書の作成まで法律家が行う。
⑧ 裁判(訴え)提起
法律家の査定が正当な場合には,裁判により適正な損害賠償が得られる可能性が高い。
判決による解決の場合,弁護士費用も加算でき,遅延損害金も付加されるので,低額な金額をのまされるよりは裁判をした方が結局は解決が早い場合もある。
弁護士費用等特約がついている保険であれば弁護士の費用も心配なく進められるので,直ちに訴えを提起すべき。国内大手損保の商品は,弁護士費用等特約は司法書士にも特約の適用があるとされているが,通販系・ダイレクト系の損保は弁護士に限定している。