刑事記録の入手方法
交通事故を起こした者は,民事上の損害賠償責任だけではなく,刑事上の処罰を受けることがあります。
刑事上加害者がどういう処分を受けたかによって,民事上の損害賠償責任を追及するための資料の入手できる方法が異なっています。
詳しくは,弁護士にご相談下さい。ここでは損害賠償の裁判外での入手方法についてご紹介しておきます。
特に重要なのは,事故状況を客観的に証明するための「実況見分調書」です。
→実況見分調書とは,場所・物・人について,その形状を関知する処分のうち,強制力を加えないでなされる処分について、調書化したものです。
強制力を加えるものは検証といいます。
交通事故で作成される実況見分調書は,事故状況を保全するために,当事者双方が立ち会って、現場で指示説明をして図面化したものです。
この場合,被害者は、事故直後救急車で運ばれ、入院したりするため,被害者の言い分を聞くことができず,加害者の言い分だけで実況見分調書が作成されたりすることがあるので,その内容については十分な吟味が必要となります。
1.不起訴の場合
非開示が原則ですが,被害者保護の見地から,法務省の通達で,実況見分調書等の客観的証拠と,供述調書については,代替性がない場合に,例外的に開示が認められる運用となっています。
具体的な開示の要件については,平成20年11月19日付刑事局長依命通達(法務省刑総第1595号)-法務省のHPでみることができます-に記載されています。
弁護士法23条の2の照会をして,検察庁に対する閲覧・謄写申請をする方法が通常です。
2.起訴後,刑事裁判係属中の場合
被害者およびその遺族,当該被害者の法定代理人またはこれらの者から委託を受けた弁護士は,刑事事件の係属する裁判所に対し,被告人(加害者)の刑事記録の謄写申請が可能です。
裁判所は,記録の閲覧または謄写の申出がなされたときは,検察官及び被告人(加害者)または弁護人の意見を聞き,閲覧または謄写を求める理由が正当でないと認められる場合及び犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して閲覧または謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き,申出をした者に閲覧または謄写をさせるものとしています。
犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(「犯罪被害者保護法」)第3条に規定されています。
3.加害者の刑事裁判が確定した場合
刑事訴訟法53条に基づき,検察庁に対して,刑事記録の閲覧・謄写申請する方法によります。
具体的な実務では,事前に当該刑事裁判の担当であった検察庁に対し,電話をかけ,記録の特定に必要な情報(検番が分かれば検番)を伝えて「閲覧申請」が可能かどうかについて確認します。
閲覧申請が可能であれば,必要書類と手数料を持って検察庁の記録担当者に閲覧申請します。
閲覧申請後,閲覧可能かどうかの判断がなされ,記録担当から電話連絡が来ます。
その後閲覧に行き,謄写を求めたい部分について別途謄写申請をします。
その後,謄写することになります(検察庁によって謄写業者が入っているところと,自分で謄写するところがあります)。
確定記録の保存期間は,次のようになっていますので,期間が経過しないように取り寄せておくことが必要です。
・5年以上10年未満の懲役または禁固に処する裁判に係る記録 |
10年 |
・5年未満の懲役または禁固に処する裁判に係る記録 |
5年 |
・罰金に処する裁判に係る記録 |
3年 |
4.少年事件の場合
少年法5条の2に基づき,家庭裁判所に申請します。
被害者等またはこれらから委託を受けた弁護士は,家庭裁判所に対し,少年(加害者)の保護事件の記録の謄写申請が可能です。
裁判所は,記録の閲覧または謄写の申出がなされたときは,閲覧または謄写を求める理由が正当でないと認められる場合及び少年の健全な育成に対する影響,事件の性質,調査または審理の状況その他の事情を考慮して閲覧または謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き,申出をした者に閲覧または謄写をさせるものとしています。
審判開始決定後に限られています。
保護事件を終局させる決定が確定したあと3年を経過すると,申出ができなくなるので,期間が経過しないように取り寄せておくことが必要です。
5.物損事故の場合
担当警察署に対して,弁護士法23条の2に基づく照会手続により,物件事故報告書を取り寄せることができます。
→物件事故報告書とは,実況見分を省略した場合に作成される事故概要を説明する書類のことであり,事故概要をメモ程度に記載するにとどまり,現場付近の略図などの添付も要しないとされています。
刑罰法令に違反する事実がないことが多いため,人身事故における実況見分添付図面とは大きく違いがあり,衝突地点の判定,事故状況を判断する材料は含まれていません。
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