治療費について

1 必要かつ相当な実費全額について損害と認められます。


2 これに対し,診療行為の医学的必要性,若しくは,合理性が認められない治療行為を過剰診療といい,当該治療行為と事故との間に相当因果関係が認められず,治療費は損害賠償として認められません。
そこで,しばしば被害者の治療行為が過剰診療であるとして,治療行為と事故との間の因果関係が争われることがあります。


3 しかし,医学的必要性,若しくは,合理性の判断は,第一次的には治療に当たった臨床医の判断が重視されるべきであり,治療担当医が相当として治療を実施している以上,医学的必要性,合理性が一応認められ,これを排斥する特段の事情が立証できない限り,医学的必要性,若しくは,合理性を肯定すべきであるとされています(境充廣「治療関係費」『新・裁判実務体系5 交通事故』収容330頁)。


4 この点,損害保険会社は,実際に治療に当たっていない,自社の顧問医の見解を意見書として提出してくることが多いのです。しかも,提出に際し,時間がかかるといって裁判期日が空転することが多々みられます。東京海上日動火災保険株式会社の場合は東京海上日動メディカルサービス株式会社所属の医師が作成します。内容は100パーセント被害者に不利なものです。

これらは,依頼者である損害保険会社の意向に沿った内容であり,医師の倫理が問題となります。

また,医師法第20条は「医師は自ら診察しないで診断書を交付してはならない」とされており,「意見書」という表題がついていたとしても,その実質は「診断書」であり,被害者を診察していないので,医師法第20条に違反する疑いがあります。


その証拠価値においても,実際に患者を診た主治医の判断が尊重されるべきで,患者を診ない医師の判断には何らの医学的根拠もありません(西川雅晴弁護士「交通事故電脳相談所」『意見書問題を考える』https://www.nishikawa-law.jp/ronri.htm参照)。


逆に,主治医の意見書は,訴訟中であれば,書面尋問の方法によりえられますが,事前に入手しておく場合には,面会の上,主治医の意見を聞いて意見書の作成依頼をしておくことのほか,弁護士法第23条の2の弁護士照会の方法によることが考えられます。
この点,交通事故訴訟の経験の少ない弁護士や時には裁判官までもがこのような損害保険会社の戦法にまんまとのせられることがあるので,十分な注意が必要です。


5 また,工学的に見て,衝突の際の衝撃が少なく,頸部等に外傷が生じえないという主張がなされることもあります。しかし,剛体である車両と異なり,軟体である人体に与える衝撃の影響は個体差が大きいとされています。事故の際の乗車位置,姿勢等で,衝撃が人体に与える影響は微妙に異なるとも言われています。

したがって,物理的な衝撃の程度だけで判断するのは相当ではなく,諸般の事情を総合的に考慮し,頸部外傷性症候群の発生の有無,程度を判断すべきであるとされています(総合説。前掲「治療関係費」『新・裁判実務体系5 交通事故』330頁参照)。


6 裁判例
 ① 横浜地裁平成5年8月26日判決・自保ジ1062号
頸部捻挫等による16ヶ月間の通院(実治療日数305日)のうち3ヶ月を超える期間の因果関係が争われた事案で,被害者には詐病による利得を図る意図はなく,医師も不必要な治療に及んだとまで見ることはできないとして,16ヶ月全期間の治療日を認めたものです。
 ② 横浜地裁判平成5年11月8日判決・自保ジ1075号
事故後,結婚が破談となったこと等から神経症になるなどした被害者について,約2年間の全治療期間について相当因果関係を認めたものです。

7 一点単価問題(木ノ元直樹「治療費」『現代裁判法大系6交通事故』収容292頁以下)
(1)問題の所在
 交通事故による外傷を治療する場合,保険診療ではなく自由診療とされることが多いのです。
  被害者側は,加害者の負担により健康を完全に回復できるのであれば,高度な高度先端医療を積極的に望む傾向があり,医療側は,交通外傷の場合,突発性・緊急性があり,集中的に濃密な医療行為が必要となるので,保険診療では報酬よりも出費が上回ることも少なくないため,医療内容に適った診療報酬を確保したいとの事情があります。
  しかし,交通事故において最終的に費用負担をするのは加害者であるため,自由診療の費用を全て加害者に転化してよいのか,治療費の一点単価はいくらが相当なのかが問題となります。

(2)基本的な考え方
  ① 健康保険法の診療報酬体系は,一点単価を10円とし,診療報酬点数表の点数にこれを乗じて診療報酬を算定するようになっているところ,この体系は,利害関係を有する各会の代表委員と公益を代表する委員によって構成される,厚生大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会の答申に基づくものであり,その内容には公成妥当性が認められること,
  ② 厚生省発表の統計によると,昭和54年ないし同56年度における全国民医療費のうち,患者の自己負担部分は20パーセントで,健康保険による診療が診療全体に占める割合が極めて大きく,ほとんどの診療において健康保険法の診療報酬体系が適用されていること,
  ③ 国公立病院等の公的医療機関においては,交通事故受傷の治療に対して社会保険診療を施す期間が相当数存在すること,
  ④ 健康保険を適用して治療できない病院はない旨述べる学識者は多いこと,
から,健康保険資料報酬体系を交通事故外傷の場合にも一般的な基準とします。被害者に対する治療が保険診療である場合には,この事実によって,治療費全体の相当性が推定され,これを争う加害者が,過剰診療の問題を提起し,加害者が積極的に主張立証する必要があるというべきです。

(3)自由診療の請求はできるか
 交通事故による被害者の受傷度が重傷,重篤あるいは瀕死の事例の場合,突発かつ重傷複雑多様な症状を呈し,即刻,重点的かつ集中的に適切な治療を施し,将来の合併症の予防のために高度の緊急措置をするのが常であり,保険診療より高額となることが多く,後遺障害を予防あるいは軽減するための損害拡大予防という機能も有しています。
 したがって,例外的に,被害者の症状や治療経過などに照らして,自由診療による保険診療より高額な治療費が必要かつ合理的な事例があり得ますが,この点についての主張立証は被害者がしなければなりません。

(4)裁判例
 ① 福岡高裁平成8年10月23日判決・判時1595号73頁
   診療単価を1点15円としたものです。
 ② 福岡高裁宮﨑支部平成9年3月12日・判時1611号77頁
   被害者が右下腿脱臼開放骨折等により入院した病院からの,自由診療による診療報酬請求につき,1点単価15円が相当であるとしたものです。


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